大江戸奇術考
- 泡坂妻夫『大江戸奇術考:手妻・からくり・見立ての世界』平凡社新書、2001年
目次
- 奇術前史
- 放下と幻術
- はじめての奇術書『神仙戯術』
- 趣味人の座敷手品
- プロの舞台奇術
- 江戸の手練奇術(スライハンドマジック)
- からくりと時計
- 江戸の怪奇趣味
- 歌舞伎のからくり
- 奇術と料理
- 伝承の奇術
- 世界との交流時代へ
感想
著者は奇術愛好家の推理小説作家。18・19世紀の奇術解説本を中心に、江戸の人々が楽しんだ奇術の世界を、自分自身の奇術体験談を交えて重ね合わせながら、紹介している*1。話題は、からくり細工や見世物の怪奇趣味、歌舞伎の道具や見立てなどにも及んでいて、小さいながらも図版が多く収録されているので視覚的にも楽しいエッセイになっている*2。
ただし、紹介されている本は
内容は奇術のほか、生活上の便利術や呪いめいた術も含まれている。この、純正奇術以外のものも載せるという不思議な編集は、明治に入っても引き継がれている(49頁)のであり、著者自身も
その時代、奇術も妖術も魔術も呪いも、不思議なものは全て未分化のまま受け入れられていたのだ(178頁)と書いているにも関わらず、本書は一貫して、現在から見てトリックのある奇術やからくりと不可思議な呪いの類との区別が自明のものであるということを前提としている。そして、専らトリックのあるものに焦点を当てているため、歴史的な文脈において奇術と呪いとがどのような関係にあったのかという点が分からないのが残念なところ。
『料理こんだて手品伝授』なる料理本と奇術本とを併せた本があったというのは面白い。
*1:あとがきからすると、国立劇場伝統芸能情報館所蔵の「緒方奇術文庫」を利用していると思われる。
*2:本書で紹介されているものの内、『放下筌(ほうかせん)』は河合先生のマジック資料室に「金輪の曲」の図がある。また、歌舞伎についての『戯場訓蒙図彙(しばいきんもうずい)』は日本芸術文化振興会のサイトにある文化デジタルライブラリー(要Flash)でオンライン閲覧可能。