中世史研究と考古学

以前 info を載せたシンポジウム「中世史研究と考古学:中世の日本とヨーロッパでの流通と貨幣を中心に」*1へ。

会場は普通の中教室。残念ながらあまり人が入っていなかった感があるが、座った後は会場を見回さなかったので、後で増えたのかも知れない。

お目当てのブラックバーン氏の講演は、経済活動の史料としての hoard(埋蔵貨/備蓄貨幣/一括出土銭)と single-finds(個別発見貨)の問題について。はっきり且つゆっくりとした喋りだったので、原稿にない追加説明も聴き取り易かった。

大量にまとまった形で出土するため、これまで主要な考古史料とされてきた hoard については、その埋蔵が意図的なものであり、実際の経済活動・貨幣流通状況を反映しているとは言い難いという批判がある。一方、個別に発見される single-finds は、その遺失状況から、より無作為性の高い(ランダムな)史料として有用であり、実際 hoard と single-finds のそれぞれが示す貨幣流通状況にはズレがある、と。
どちらが正しいとかいうのではなく、どちらにもバイアスが掛かっているのだから、それぞれを勘案して研究を進めていくことが重要なのだろう。後のコメントによれば、hoard の取り扱いへの批判と single-finds の史料的価値という問題は日本の研究においても共通しているという。
議論の中心となる single-finds についてはイングランドの事例中心だったが、大陸の状況との比較などもあり、興味はあるが知識はない分野について、一時間半程度の講演を面白く聴けた。また、コメントでも言及されていたが、

  • 金や銀か銅かという貨幣の材質自体の問題
  • 意図的な散銭という日本での single-finds が生まれる背景の問題

などの日欧の貨幣観の違いや

  • 古銭とオークションのカタログの資料性
  • 金属探知機の使用による貨幣発見件数の増加

などのヨーロッパでの研究背景の日本との違いなども興味深い。

最初の休憩で帰ったが、その時点で一時間弱も押していたので、もうちょっとタイムキーピングをきっちりした方が良かったのではないかとは思う。講演自体がゆっくりだったということもあるけど。

内容(聴講分)

  • Mark Blackburn "Coin Finds as Primary Historical Evidence in Medieval Europe"
  • 櫻木晋一「《コメント1》日欧出土貨幣研究の共通点、問題点」
  • 中島圭一「《コメント2》中世日本貨幣流通史からの視」

**追記
ニュースレターに当日の模様が掲載されている。(12月5日記)
http://www.abc-proj.jp/contents/newsletter/medieval_history002r.html
(サイト消失?)