医療化?

  • 澁川祐子「病気なので、休職して海外旅行に行きます:『「私はうつ」と言いたがる人たち』(香山リカ著、PHP新書 2008年)」『日経ビジネス オンライン』(2008年9月2日) http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20080901/169410/
    従来型のうつ病にかかっている人にとっては、その壮絶な苦しみが他人に軽くみられてしまう危険性がある。うつ病は死にも至る病だ。それが周囲から「どうせ休む言い訳でしょ」と軽く扱われてしまっては、治療や休養の機会を逃す可能性がある。
    一方、それ以外の人にとっても、悩みや迷いからくる気分の落ち込みを単なる病気の症状にすり替えてしまうことは、生きることの豊かさや味わい深さを切り捨てる行為にほかならない。

普段なら著者名でスルーしそうな本だけれど、ちょっと連想したので。
「自分はこんなに苦労している」「自分はこんなに悩んでいる」「自分はこんなに酷い目にあわされた」と、そこに至るまでの周囲の状況を客観視せずに、自分を一方的な被害者にした物語を語りたがる人は居る。その影で、「自分が悪いから」と全部自身に引き受けてしまって、本来そうした苦しみを表に出せない人も居る。
自分の苦しみを表現することは悪いことだとは思わない。ただ、前者の様に、自分本位の物語を都合の良い図式に落とし込んで吹聴して回ることが、後者が語ることをますます抑圧していくことにもつながっているということは、見過ごしてはならない。これは、語る/語らないという当人だけではなく、人間関係の複雑さを厭い、語られた「わかりやすさ」に(肯定的にも否定的にも)安易に乗っかってしまう周囲が生み出している問題でもあるのかも知れない。